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国産品健闘、虚偽値引き露呈…今年の「11.11」を総ざらい【中国マーケット点描】

 

元中国国立大学日本語教師の翻訳ニュースライター 浦上早苗さんが、
中国消費者のリアルから中国マーケットの今を浮き彫りにする
【中国マーケット点描】

 

11月11日たった1日で日本の代表的なECモールの1年間分を売り上げてしまうという、中国の「独身の日」セール。
今回は今年の「独身の日」W11セールを振り返って、中国ECのリアルな今をご紹介します!

 

 

国産品健闘、虚偽値引き露呈…今年の「11.11」を総ざらい【中国マーケット点描】

 

中国最大のインターネットセールが行われる「独身の日」(11月11日)、アリババが運営するECサイトの1日の売上高は1682億元(約2兆9000億円)に達し、前年から40%伸びた。この数字は米国の2016年のブラックフライデーとサイバーマンデーを足した額を上回る。

日本ではアリババの数字ばかり報じられるが、この日はEC業界2位の京東商城(JD.com)や蘇寧易購も同様のセールを実施しており、中国全体のEC売上高はさらに多い。

今年は日本でもイオンがセールを開始。11月11日は世界最大のセールの日になったと言える。

 

 

<今年の主な数字>

 

ここで、今年の独身の日の主な数字を振り返ってみよう。

 

・アリババのECサイトの売上高1682億円:

開始3分の11日0時3分に100億元(約1700億円)、午前9時0分4秒に1000億元(約1兆7000億元)を突破した。午後1時9分(現地時間)に昨年11月11日の1日の売り上げ1207億元(約2兆元)を超えた

ライバルの京東商城は11月1日からセールを実施。1日~11日までの売上高は1271億元だった。蘇寧易購は11日0時の開始から7秒で注文1億元(約17億円)を超えた

 

・大手EC企業が注文を受けた商品の配送件数8億5000万件:

前年同期比29.4%増加した。今年動員された宅配業界のスタッフ数は推定300万人。

 

・アリババのモバイル決済アリペイ(支付宝)の1日の決済件数は前年同期比41%増の14億8000万件:

中国人全員が、1回使った計算になる。セール開始5分22秒時点でアリペイ(支付宝)の1秒あたりの決済件数は25万6000件だった。

 

日本でも中国の独身の日への関心が高まり、今年は売上高だけでなく、「宅配現場の負荷」も報じられた。ただし、中国で配送パンク問題が注目されたのは、ネットセールが急速に浸透した2013年前後で、その後はECサイト、宅配会社共にビッグデータの活用やオペレーションの自動化、スタッフ増強を進めたため、最近はかつてのような混乱は減っている。

アリババは2013年、運送企業と連携し物流企業「菜鳥網絡」を設立。さまざまなプラットフォームを提供し、配送を支援している。

迅速で効率的な配送も、品ぞろえと同じくらい消費者に重視されるため、各社とも、セール1件目の出荷時間を発表するなど、自社の物流網のアピールに力を入れる。

今年は、荷物の多さに怒った宅配スタッフが、段ボールを蹴り落とす動画が拡散したが、数年前までは荷物の紛失や到着遅延はよくあることだったから、状況はかなり改善されたと言える。

 

ネットだけでなく実店舗でも「独身の日」セールが開催されるように…

最近ではモールや百貨店などでも「独身の日」セールが増えている

 

<トレンドは越境ECと新小売り>

 

今年のトレンドとして、越境ECの拡大と「新小売り」コンセプトの普及が挙げられる。
中国での海外ブランドの人気は今に始まったことではないが、世界的に「独身の日」が認識され、アリババのサイトでは225カ国・地域の消費者が参加。出店ブランドは140万に上った。

海外ブランドは限定商品や目玉商品を展開し、1億元以上を売り上げたブランドは167あった。ナイキとアディダスは1分弱で売り上げ1億元を突破、どちらも1時間で昨年1日の売上高を超えた。

中国のインターネットユーザー、モバイルユーザーは天井に達したと指摘される。これ以上の国内ユーザー増加を期待できないECサイト側も、積極的に海外消費者、海外ブランドの開拓を進めている。アリババは世界各国の大使館と連携しグルメイベントを実施、VIP会員を招待して取引を促進するなど、「国境」「オフライン・オンライン」を超えた取り組みを行っている。

「新小売り」は、アリババのジャック・マー会長が提唱するコンセプトだ。定義は固まっていないが、オンラインとオフラインの融合も柱の一つ。今年の独身の日は、ネットで注文したユニクロの商品を店頭で受け取れるようにするなど、来店を促す動きもあった。

 

 

<国産品も健闘>

 

売れ筋の商品は育児用品、化粧品などで、これまでと変わらない。だが、販売上位ブランドに、中国企業が目立つようになったのが、今年の特徴だろう。話題になったのは「化粧品ランキング」。これまで、ランコムやエスティ・ローダーなど外資の独壇場だったが、中国ブランドが初めてトップ2を押さえた。中国製品への認知度が上がったことを反映しているのは間違いなく、プチプラコスメとして選ばれているようだ。

また、日用品と並ぶ人気カテゴリーのエレクトロニクス製品では、スマホの伸び鈍化が鮮明となった。アップルなどグローバルブランドは相変わらずの人気だが、中国のスマホ市場の成長を支えてきた「中低価格帯」商品は振るわなかった。スマホ市場は飽和・淘汰段階に入ったと多くの関係者が指摘しており、独身の日のセールでもその一端が現れたと言える。

 

 

<大規模な買い控えの結果の記録的売り上げ>

 

独身の日を盛り上げるため、アリババをはじめとするEC運営業者は、さまざまなプロモーションを展開する。海外スターを招いたカウントダウンイベントやテレビ番組。そして、独身の日限定で使えるクーポンも事前に配る。

セールが定着した結果、起きているのが「買い控え」だ。1日の売り上げばかりが注目されるが、おそらく、その前の数週間は中国全土レベルで消費が停滞しているはずだ。

大連に住む20代女性は、10月上旬にショッピングセンターで服を買おうとしたら、一緒にいた友人に「独身の日まで待った方がいい」と言われたという。実際、店頭価格199元のその商品は、11月11日に淘宝(タオバオ)で99元になった。その友達いわく、10月は「独身の日に買い物をするための、下見・試着期間」だという。

タオバオに出店している日本人業者も「独身の日前後は、全く売れない」と苦笑いする。

 

中国ではネットだけでなく実店舗でも「独身の日」セールが盛り上がった

実店舗でも「独身の日」に合わせたセールを実施するところが増えている

 

<本当は安くなっていない?>

 

売り上げ金額が右肩上がりで増え続ける「独身の日」だが、中国人の熱狂のピークは数年前で、今は理性的になっているように感じる。

3年ほど前は、「とりあえずサイトのセール会場に行ってみたら、何でも安くなってて、買わなければ損をするという気持ちになった」「いらないものまで買っていた」「買ったけど全然使っていない」という声を多く聞いたが、先述の女性のように、事前にショッピングセンターに行ってネットセールで買うものを品定めするといったような、計画的な消費行動が増えている。

また、別の20代女性は、「セール商品があふれかえっているけど、本当に普段より安くなっているか分からない」と疑問を呈した。彼女の心配は的中、中国消費者協会は11月29日、独身の日のセール商品を調査したところ、78%が実際には値引きされていなかったとの結果を発表した。独身の日直前に値上げし、その後価格を下げることで、値引きを装うケースが多く見られたという。

 

 

独身の日は、「1年で1番、消費者からのクレームが寄せられる日」でもある。商品の品質、サービス、配送体制……ECに関わる多くの問題が毎年露呈し、EC運営業者や配送業者は翌年に向け解決に取り組む。その中で、ビッグデータやAI、決済システムなど次世代技術が進化し、企業体質が強化され、消費者も賢くなっているのだ。

 

 


浦上 早苗浦上 早苗(Sanae Uragami)

大学卒業後、新聞記者12年半。その後、中国政府奨学金を取得し、2010年に中国・大連の博士課程に国費留学。現地の小学校に通う息子と留学生寮で二人暮らしを始める。
2012年から2016年まで少数民族向けの国立大学で日本語教師。

現在は中国語と英語の経済ニュース翻訳・編集、ライター。ニュース翻訳で中国全体の状況を把握しつつ、大学で中国学生のリアルな声を聴けるのが強み。


 

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