中国マーケティングラボ

シェアサービスはなぜ中国で生まれ、成長するのか【中国マーケット点描】

 

元中国国立大学日本語教師の翻訳ニュースライター 浦上早苗さんが、
中国消費者のリアルから中国マーケットの今を浮き彫りにする
【中国マーケット点描】

 

中国ではなぜこんなにシェアリングエコノミーが急速に普及しているのか?
今回は中国で爆発的に増殖しているシェアサービスのリアルな今をご紹介します!

 

シェアサービスはなぜ中国で生まれ、成長するのか【中国マーケット点描】

 

10月30日の日本経済新聞の朝刊で、中国のライドシェア最大手の滴滴出行(ディディ・チューシン)が、日本のタクシー会社と組んで日本に進出すると報じられた。

滴滴出行は、タクシーと個人の自家用車の両方を配車できるアプリで、数年前から中国で普及。中国に進出したウーバーも太刀打ちできず、結局ウーバーは中国事業部を滴滴に譲渡し、撤退した。

シェアエコノミーは世界中でバズワードになっている。中国を席捲しているシェア自転車の2大企業、摩拝単車(モバイク)とofoはいずれも日本進出を発表。米国のコワーキングスペース大手、WeWorkもソフトバンクと組んで、来年東京に進出する。実はコワーキングスペースは中国企業も急成長しており、その一社である裸心社(naked Hub)はシンガポール同業と合併し、同じく日本を含めたアジア展開を計画している。

他には、シェアエコノミーの先駆け的な存在、民泊のAirbnb(エアビーアンドビー)、中国民泊企業「途家網」も日本で利用できる物件を大きく増やしている。

日本のメディアは今、海外、主には米中のシェアサービスが国内参入を発表するたび、「日本上陸」と大きく報道している。しかし、海外のサービスが日本に入って来ることはあっても、なぜ日本初のシェアサービス企業が成長しないのだろうか。
そして、海外のサービスは、日本でどの程度成功するのだろうか。

 

首都国際空港に出されている滴滴出行の広告(北京10月19日筆者撮影)

首都国際空港に出されている滴滴出行の広告(北京10月19日筆者撮影)

 

中国の問題を、中国の技術で解決したシェア企業

 

私は2016年7月まで中国に住んでいたが、当時はシェア自転車ビジネスが芽吹いたばかりだった。それが今では、北京ではオレンジと黄色の自転車が通りにあふれかえっている。

シェア自転車という言葉は新しいが、観光地のレンタサイクルは、中国に限らず以前から存在した。ofoやモバイクは、スマホのアプリを使うことで、好きな場所での乗り降りや人を介さない決済を実現し、さらにはベンチャーキャピタルからの巨額の資金を得て、大量の自転車を短期間で生産、投入することで、信じられないほどの成長を実現した。

ライドシェアの滴滴出行も、スマホとともに普及した。中国は日本と違い、タクシー運転手が客よりも強い。タクシー運賃が安く、そして私が住んでいた東北部は、地下鉄が発達していなかったため、朝や夕方はタクシーの奪い合いすら起きる。その結果、乗車拒否や運賃のふっかけが横行し、メーター付きのタクシーでも、メーター通りに走ってくれないことがままある。滴滴出行のアプリはGPS機能で確実にタクシーを確保し、必要に応じて運賃も事前交渉できる。相互評価体制があるため、横暴な運転手や客も避けられる。いいことづくめで、タクシーを利用する精神的負担が大きく減った。このアプリの偉大さは、タクシー事情が全く違う日本人には、なかなかピンと来ないかもしれない。

「シェア」に商機をかぎ取った中国の商人たちは、あらゆる分野への導入を始めた。
現地メディアの報道によると、上海の公園には、「シェアベビーカー」業者が登場した。中国の古い団地はエレベーターがついていない建物が多いので、ベビーカーを買っても、それと子どもを抱えて階段を昇り降りしなければならない。このような住宅に住む高齢者が孫と散歩するときに、シェアベビーカーの需要が生じるとの読みだった。

また、別の都市ではスタートアップがシェアエアコンを始めた。エアコンを借り、使った時間に応じた料金を支払う。もっとも、サービス開始時に、エアコン1台分に近い保証金が必要なので、記事では短期居住者でもない限り、意味のないサービスとの突っ込みもされていた。

 

通路をふさぐほどあふれるシェア自転車(北京10月14日筆者撮影)

通路をふさぐほどあふれるシェア自転車(北京10月14日筆者撮影)

 

普及の背後に「国民的SNS」と「国民的モバイル決済」の存在

 

中国でなぜ、ここまでシェアサービスが広がるのか。最大の要因は、「スマホ」とそこから生まれた「国民的SNS」「モバイル決済」の存在だろう。

中国に関わる人なら皆聞いたことがあるだろう、モバイルSNSの「微信(WeChat)」。その機能はLINEに似ているが、普及のレベルが全く違う。中国人は即時返信を望むからか、以前からEmailの存在感が薄く、人々は電話やショートメッセージ、パソコン時代のメッセージツールQQで用件のほとんどを済ませてきた。そして微信が登場すると、スマホ利用者のほとんどがこのアプリの利用を始め、微信がないと生活できないほどのコミュニケーションツールに成長した。

微信はその後、どんどん機能を増やし、ユーザー同士の金のやり取り、店舗での決済、チケットの予約、そしてフードデリバリーや配車サービスとも連携するようになった。

微信で決済するためには、銀行口座情報の登録が必要になる。警戒心の高い日本人は、この手の個人情報を全て紐づけてしまうことに抵抗感を感じがちだが、中国人は利便性を優先する。こうして、中国人はスマホ一台で、サービスの予約から利用、支払いまでできる体制を築き上げていく。

 

 

シェアに抵抗感が薄い国民性

 

ツールの存在以外に、ライフスタイルや経済的要因も関係しているだろう。
親元を離れて働く若い中国人は、大半がルームシェアで暮らしている。彼ら、彼女たちにその理由を聞くと、「一人暮らしをするだけの経済力がない」と口をそろえる。

住宅価格が高騰を続ける中国では、賃貸住宅の負担も重く、結婚するまでルームシェアをするのはごく普通だし、ルームメートをネットで募るのも珍しくない。北京で働く25歳の女性は、つてを通じて、大学寮の6人部屋で生活している(この大学は彼女の母校ではない)。

日本では「シェアハウス」「民泊」は、コストを減らす方法であると同時に「新しいライフスタイル」という印象があるが、中国では特に住居に関しては、ほぼコスト要因でシェアが選択されている。

同時に、若い中国人は環境的に、「シェア」への抵抗感が少ないことも、シェアエコノミーの成長を後押ししている要因だろう。

大学生は基本的に寮生活、4~6人部屋で4年間を過ごす。日本なら大学寮でも個室の方が多いが、日本に留学した中国人たちは、個室をあてがわれると「嬉しい」より「寂しい」が先に来るという。

車、というか座席のシェアも普通だ。
中国、特に東北部では、タクシー運転手は客を乗せていても、座席が空いていれば途中でどんどん人を乗せ、全員から料金を取る。乗る方も、乗客が増えることで支払いが減るなら特に文句を言わない。

副業が当たり前の文化も、シェアエコノミーの追い風になっているだろう。かつて私と息子は、バスが満員で乗れずに困っていると、車に乗った見知らぬ男性に「50元で乗せるよ」と声を掛けられた。日本だったら応じるはずもないが、中を見ると既に先客がいる。その男性は遠距離通勤しており、ガソリン代の足しにと、同じ経路を行き来する人を有料(バスよりは高く、タクシーより安い絶妙な価格設定だった)で乗せているのだった。

皆、自分の余った時間や座席を利用して、プラスαの収入を得ようとする。だから、フードデリバリーの運び手やライドシェアの運転手も確保しやすい。

 

 

個への意識が強い日本人、シェアの必要感じず?

 

シェアというのは、1つの文化の体現であるように感じる。自分の持ち物や時間を人と分け合うことに慣れているかどうかは、シェアサービスの成否を左右する。また、効率よくシェアするために、必要な個人情報をサービス運営会社に登録することに抵抗がないか、サービスの拡大に伴って生じそうな問題をどこまで心配するかも、そのサービスが短期間で成長するかどうかの鍵になるだろう。

最近の日本は、「個」への需要が高い。私が学生の頃は、風呂、トイレ共同の下宿に住む人もいたが、今ではほとんど聞かなくなった。先述したように、寮でも個室が基本で、知らない人とのタクシー相乗りを受け入れられる人はそんなにいないだろう(私も中国で、とても嫌だった)。

スマホでお金をやり取りすることにも、利便性より不安を感じる人が多い。また、モバイル決済の運営企業がアリババ系の支付宝と微信にほぼ集約されている中国と違い、日本は電子マネーの規格が数多くある。決済のシステム構築にも時間がかかりそうだ。

そして、これらのサービスが生み出す副産物を、行政がどこまで許容するか。中国ではシェア自転車があふれかえり、既に規制に乗り出す自治体が登場しているほか、「シェア」のはずの自転車を自宅の室内に保管し、私物化するユーザーなど、マナーの問題も指摘されている。中国は良くも悪くも「問題が起こってから対処に乗り出す」が、日本は「事前にリスクを潰す」スタイル。シェア自転車のモバイクは、福岡市に日本法人を設立したが、サービスの開始は当初発表よりずいぶん遅れ、いまだにローンチしていない。

こうして日本のカルチャーを考えれば、日本からシェアサービス大手が生まれないのは当然のようにも感じるし、中国やアメリカから入って来るサービスも、流行はしても定着するかどうかはまた別の話と言えるだろう。

 

 


浦上 早苗浦上 早苗(Sanae Uragami)

大学卒業後、新聞記者12年半。その後、中国政府奨学金を取得し、2010年に中国・大連の博士課程に国費留学。現地の小学校に通う息子と留学生寮で二人暮らしを始める。
2012年から2016年まで少数民族向けの国立大学で日本語教師。

現在は中国語と英語の経済ニュース翻訳・編集、ライター。ニュース翻訳で中国全体の状況を把握しつつ、大学で中国学生のリアルな声を聴けるのが強み。


 

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