中国マーケティングラボ

極力病院に行きたくない中国人 頼みは日本の「神薬」【中国マーケット点描】

 

元中国国立大学日本語教師の翻訳ニュースライター 浦上早苗さんが、
中国消費者のリアルから中国マーケットの今を浮き彫りにする
【中国マーケット点描】
今回はなぜ中国人は日本で医薬品を買おうとするのか?その背景にある中国の病院事情を浦上さんのリアルな体験を元にご紹介します!

 

極力病院に行きたくない中国人 頼みは日本の「神薬」【中国マーケット点描】

 

この5~6年、中国人からさまざまな買い物を頼まれて来た。つい先月は、キヤノンの一眼レフカメラのバッテリーとレンズキャップ。2か月前にはブラウンの電気シェーバー。ブラウンは日本製品じゃないんだけど……。購入だけでなく、ビデオカメラと腕時計の修理を頼まれたこともある。ビデオカメラは私の日本滞在中に修理が完了せず、実家の父に中国への配送をお願いした。

中国人は、私が日本人だから日本製品のことなら何でも知っていて、すぐに入手できると考えている。けれど、電気シェーバーのメーカーの違いや刃の性能の違いなど、女性の私に聞かれても答えられるはずもなく、そして頼まれた商品のほとんどは、自分が買ったことがないため、どこで買えるのかよく分からないことも少なくない。

 

数年前、使い捨てアイマスクの購入を頼まれ、ドラッグストアに出向いた。その途中に家電量販店があったため、立ち寄ろうかと足を止めたら、入り口にそのアイマスクが高く積まれ、中国語で「中国人人気ナンバーワン」と書かれていた。

その時に私は初めて、その商品が既に中国人旅行者の間で「必ず買うべき」一品になっており、彼らが良く行くお店なら、家電量販店だろうがコンビニだろうが、どこにでも売られていると気付いた。

 

電気製品、化粧品、そして健康食品や目元シートなどを含む広義の医薬品。これが、私が最も買い物を頼まれる「御三家」だ。電気製品や化粧品は、同じ商品なら日本の方が安く買えるという価格メリットがあるが、医薬品に関しては中国の方が安く、種類も多い。なぜ、中国人は日本で医薬品を買おうとするのか。その背景には、中国の悪名高い病院事情がある。

 

中国の「劣悪」な病院事情を知ったのは、私が中国に移住して間もない頃だ。

日本に1年間滞在経験がある中国語教師が、「日本に住んで驚いた点」として、以下のように話した。

「大きな家に住んでいるのに、車庫には高級車でなく軽自動車が置いてある。慎ましさに感心した。そして、病院の診察にはもっと感動した。医師も看護師も受付の人も皆丁寧で、最初から最後までスムーズだった」

中国の病院はまず受付で「受付料」として金を払う。そして、どの医者に診てもらうかを指定し、長い時間診察を待つ。診察の医者に、「検査を受けてこい」と言われたら、今度は検査の列に並ぶ。検査が終わったら、再び診察を待つことになる。

誰に診てもらうかで支払う額も違う。家族が病気とあらば、最善を尽くしたいと思うのが人の心。やってることは若い医師と同じだと分かっていても、数倍のお金を払って教授に診てもらう人も多い。

 

システムの煩雑さに加え、医師のモラルの低さも不満の種だ。

 

手術の前に、医者に金を払うのは半ば義務だという。

日本はどうだと聞かれ、「謝礼として何かする人はいるかもしれないけど、何もしないからといって、手を抜く医師はいないと思う」と答えると、ある中国人はこう言った。

「中国は、お金を渡さなければ、どうなるか分からない。少なくとも患者やその家族はそう思っている」

 

大学の作文の授業で、「腹が立つこと」「中国の悪い点」などのテーマを設定すると、30人の学生のうち4、5人は病院の腐敗について不満をぶちまける。

ある学生は、「先に検査してから、診察する」と言われ、検査に行って戻ってきたら、医者が帰宅していたという。

 

中国・大連の薬局で処方された歯の痛み止めや腫れ止め。この3つで合計65元(約1000円)だった

中国・大連の薬局で処方された歯の痛み止めや腫れ止め
この3つで合計65元(約1000円)だった

 

私は中国に6年滞在したが、一度も病院に行ってない。中国人に毛嫌いされる場所に、日本人の私が行きたいはずはない。だから日本にいた頃のような無理はしなくなった。ちょっとでも咳が出る、微熱が出ると、仕事を切り上げ家に帰って寝た。

中国人も同じだ。病院への不信感が強い彼らは、体調が悪化しても、極力自力で病気を治そうとするし、病気予防にも余念がない。
そんな中国人が頼るのが、薬やサプリメントというわけだ。

中国の薬は病院に行かずに薬で治すことを想定しているためか、効き目が強い。

ある日私は、突然親しらずが痛みだし、明日にでも航空券を手配して帰国しようかと思うほどのたうち回った(その時ですら、中国の病院に行こうとは思わなかった)。知り合いに「とりあえず薬局に行け」とアドバイスされ、保冷剤を下あごに当てた状態で近所の薬局に行くと、薬剤師は何も言わずに3種類の飲み薬を持ってきた。パッケージには、歯のイラストが描いてある。半信半疑で服用すると、翌日には嘘のように腫れが引いた。

 

ただし、効き目は強力でも、中国人は中国の薬の安全性をどこかで疑っている。

内モンゴル出身の教え子は、村中の尊敬を集めている故郷の町医者の話をしてくれた。亡くなったときには、村のほとんどの人が葬儀に参列したほど信頼されていたその医者は、「製薬会社の薬は信用できない」と言って、患者に処方する薬を自分で作っていたという。

江戸の町医者か!と突っ込みを入れそうになったが、中国人の医療不信はそれほど深刻ということだろう。

 

 

病院にはできるだけ行きたくない、中国の薬もできるなら飲みたくない中国人は、「高品質」の代名詞となっている日本に頼ろうとし、それが今の医療観光ブームや医薬品の爆買いにつながっている。だが、海外旅行経験がある人は分かるだろうが、外国の医薬品を適切に選択し、購入することは簡単ではない。

 

そこで多くの人は、先人の情報を参考にする。

数年前に中国のネットで拡散した「日本に行ったら買うべき12の神薬」には、「熱さまシート」など、小林製薬の商品が5つも入っていた。「神薬」リストに入った商品の売り上げは今に至るまで伸び続け、小林製薬はインバウンドの代表銘柄として定着した。

 

痔に苦しむ同僚は、大学病院で「手術しかない」と言われ、専門病院を紹介された。しかしその病院が個人病院だったため、「信頼できない」と、どこからか「痔の薬リスト」を入手して、私に「ボラギノール」の購入を頼んできた。「痔の薬リスト」には韓国の商品も掲載されていたそうで、そちらは韓国人に購入を依頼したという。

 

信頼する知人の推薦も重要な情報だ。息子が通っている学童保育の経営者にファンケルの健康食品を2万円分頼まれたことがあった。「そんなにいい食品なのかなあ」と思いながら彼女の元に届けると、逆に「これってそんなにいいの?」と尋ねられた。何でも、大学教授の推薦だそうで、中国ではまだ取り扱いがないからと、買える精一杯の量を私に頼んだそうだ。

 

 

言語能力に制約がある中国人旅行者は、リストに表示されたパッケージの写真を頼りに買い物をするため、お目当ての銘柄がなければ、棚に同じような商品が並んでいても、それを手に取ることはなく、別の店に移動する。

 

けれど、実は彼らの多くは、知らない人のクチコミを頼りにしており、私が「これも同じ効き目だよ」「こっちの方が量が多くてお得だよ」「それは20代向けの商品で、40代ならこんな商品もある」と説明すると、素直に耳を傾けてくれる。おそらくそれは、私が日本人だからだ。最近は訪日中国人に対応するため、ドラッグストアで中国人スタッフを見かけることも増えたが、少しでも中国語を話せる日本人スタッフがいれば、「リスト」以外の商品にも目を向けてもらえると思うのだが……。

 

 


浦上 早苗浦上 早苗(Sanae Uragami)

大学卒業後、新聞記者12年半。その後、中国政府奨学金を取得し、2010年に中国・大連の博士課程に国費留学。現地の小学校に通う息子と留学生寮で二人暮らしを始める。
2012年から2016年まで少数民族向けの国立大学で日本語教師。

現在は中国語と英語の経済ニュース翻訳・編集、ライター。ニュース翻訳で中国全体の状況を把握しつつ、大学で中国学生のリアルな声を聴けるのが強み。


 

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