中国マーケティングラボ

中国で大人気の『昼顔』、現地の人はどのように視聴している?中国の映像コンテンツ消費事情【中国マーケット点描】

 

元中国国立大学日本語教師の翻訳ニュースライター 浦上早苗さんが、中国消費者のリアルから中国マーケットの今を浮き彫りにする【中国マーケット点描】

 

今回は中国の映画事情と日本コンテンツがどう視聴されているか、映像コンテンツ消費のリアルな今をご紹介します!

 

 

中国で大人気の『昼顔』、現地の人はどのように視聴している?中国の映像コンテンツ消費事情【中国マーケット点描】

 

 

6月下旬、知り合いの中国人から「『昼顔』の映画が中国で大人気になってますよ」と教えられた。別の中国人に聞くと、「人気は人気だけど、上海の話でしょ」と返って来た。

改めて調べたところ、映画版『昼顔』は、先月開催された上海国際映画祭で上映され、チケットが売り出し後即完売するほど注目を集めたという。

同作品は3年前のドラマ放映時から人気で、教え子である中国人大学生の多くが視聴していた。中国で不倫を描いたドラマが少ないことも、注目された理由の一つだそうだが、それゆえに、国を挙げて腐敗摘発に取り組んでいる今の中国では、同作品が一般公開される可能性は低いという。

日本コンテンツ、特にアニメの中国での人気ぶりはよく知られているが、日本人の関心は「どんなコンテンツ」が見られているかに集中し、どのように視聴されているかを質問されることは多くない。

そこで今回は、中国の映画事情と、日本コンテンツの視聴環境の2点について紹介したい。

 

 

1. 映画館だらけの都市部

 

娯楽としての映画の立ち位置は、日本と中国ではやや違うように思う。 映画館で映画を見たことがないという日本人の大人はそんなにいないだろうが、「今年何回映画を見に行きましたか」と質問したなら、「ゼロ」という回答も少なくないのではないだろうか。レンタルDVDの普及と娯楽の多様化で、映画館の数は長期的に減少基調にある。また、周囲を見る限り、コンスタントに映画館に足を運ぶのは、中年以上の層が多い。

対して中国の映画館では、年配者より若者の姿を多く見かける。大学低学年の日本語の授業では、「昨日は何をしていましたか」「試験が終わったら、何をしたいですか」という簡単なやり取りの練習をするが、そこでの回答にも、しばしば「映画」という言葉が出て来る。しかも、男女を問わず、ルームメートなど同性数人で連れだって見に行くケースも珍しくない。

中国の若者にとって映画が身近であることの理由はいくつかあるが、まず、チケットの安さが挙げられる。正規のチケット価格は60元(約1000円※)ほどだが、オンライン購入や平日鑑賞だと、15~30元(約300~500円※)で買うことができ、大学生にとっても大きな負担ではない。
※1元=17円程度の場合

次に、都市部の映画館がその数を増やし続けていることも、映画と人々の距離を縮めている要因だろう。中国のスクリーン数は2009年に5000もなかったが、2014年には2万2000に増え、2016年末には4万を超えた。ショッピングセンターが次々に建ち、その中には必ずと言っていいほどシネマコンプレックスが入居している。大連の私の自宅周辺も、徒歩圏内にシネコンが3つあった。中にはキャンパスに映画館を持つ大学すらある。

そして映画の上映に関しても、日中の違いがいくつかある。

中国では、外国作品の上映本数に上限がある。そのほとんどはハリウッド映画で、隙間に日本映画が割り込む構図となっている。昨年は、日本で大ヒットした『君の名は。』のほか、『ビリギャル』やアニメ数本が上映された。

私も年に数回だが、中国で映画を見に行っていた。その時に困るのが、上映スケジュールが直前まで分からず、しかも突然上映終了となってしまうことだ。

日曜日に映画を見に行こうとしても、具体的な上映時間が分かるのは早くて金曜日。通常は土曜日だ。

ハリウッドの大作の公開日には12スクリーンのうち10スクリーンでその映画が上映され、その他の数作品は1日1回上映ということもざらにある。しかし2週間後に同じ映画館に行くと、その大作が上映されていないなんてこともある。

コンテンツとスクリーンは余るほどあるが、利益第一の映画館は、出足が悪いと10日ほどで上映を打ち切ってしまう。だから、地味な作品がクチコミで広がり、ロングヒットとなる、といったような状況は生まれにくい。

昨年は中国人学生から『ビリギャル』が上映されていると聞き、日本人数人で週末に見に行こうと計画を立てたが、その週半ばに予告なく上映が打ち切られ、結局見ることはできなかった。

そして急成長を続けてきた中国の映画市場は、昨年後半あたりから成長鈍化が鮮明となっている。スクリーン数はついに米国を抜いて世界トップになり、1~6月の観客動員数も前年同期比7%増えたが、興行収入の伸びは3.5%にとどまった。今年は国産映画の不振ぶりが際だち、鉄鋼や石炭に続いて、映画館市場も「供給過剰」時代に入ったとの声もある。

 

 

2. 地上波では放送されない日本コンテンツ

 

冒頭で、ドラマ『昼顔』は3年前のテレビ放送時から人気だったと書いた。では中国人は、どうやって作品の存在を知り、視聴しているのか。

中国政府は日本のコンテンツの流入を規制している。ドラえもん、ちびまる子ちゃんレベルの一部の国民的アニメを除いて、日本のドラマやアニメが地上波で放送されることはほとんどない。最近人気の『進撃の巨人』や『昼顔』も例外ではない。

しかし、中国人にとってそれは大きな問題ではない。「優酷」などインターネットの動画サイトを開けば、日米の人気コンテンツはあらかた「字幕付き」で視聴できるからだ。

私がそれに気づいたのは、中国に住み始めて1年ほど経ったころだった。当時小学生だった息子お気に入りのバラエティ番組の過去放送分がほとんどアップロードされていることに気付いた。しかもそれらは、日本で放送された翌日には中国で視聴できる状態になっていた。

若者に人気のバラエティはもちろん、高度な日本語能力がないと理解できなさそうなクイズ番組、さらには1990年代のトレンディドラマまで網羅している。

勤務先の日本語学科では、年に1回「演劇祭」が開催され、各クラスがさまざまな日本作品を上演していたが、その素材はこれら動画サイトから拾ってきていた。

 

 

中国のショッピングモール

 

 

もちろん、日本のコンテンツを動画サイトに勝手にアップロードする行為は、著作権法違反だ。自主的に中国語の字幕を付け加えていた「字幕組」と呼ばれるグループのメンバーが日本で逮捕されるケースも相次いでいる。中国の動画サイト運営会社も、違法コンテンツの取り締まりに乗り出しており、中国人がこぞって見ていたドラマの『昼顔』も、今は削除されているようで、残っているのは映画の予告編くらいだ。

しかし、あれだけ反日教育がされてきた国で、日本に親しみを持つ人々が絶えず生み出されているのは、これらコンテンツのおかげでもある。私が勤務していた大学の日本語学科では、「日本アニメが好きだから」日本語専攻を選んだという学生が年々増え、最近は全体の4分の1ほどを占めていた。

コンテンツを生み出した人や組織の権利を守ることはもちろん大事だ。一方で、今の中国の政治や経済の状況では、違法に流入している日本コンテンツが、リアルな日本を伝える重要な役割を果たし、インバウンドの追い風にもなっている。

中国でのアニメ人気と、それを利用したコンテンツビジネスに関しては、日本メディアも度々報じているが、その裏側にはコンテンツを勝手に動画サイトに投稿する人と、これまた勝手に字幕を付ける人々の存在がある。知的財産権を大切にする日本で、それらを「必要悪」と言うのははばかられるが、ここを読む方々にこっそり伝えたい実態でもある。

 

 


浦上 早苗浦上 早苗(Sanae Uragami)

大学卒業後、新聞記者12年半。その後、中国政府奨学金を取得し、2010年に中国・大連の博士課程に国費留学。現地の小学校に通う息子と留学生寮で二人暮らしを始める。
2012年から2016年まで少数民族向けの国立大学で日本語教師。

現在は中国語と英語の経済ニュース翻訳・編集、ライター。ニュース翻訳で中国全体の状況を把握しつつ、大学で中国学生のリアルな声を聴けるのが強み。


 

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