金額=気持ち 日本と全く違う中国のプレゼント文化【中国マーケット点描】
元中国国立大学日本語教師の翻訳ニュースライター 浦上早苗さんが、
中国消費者のリアルから中国マーケットの今を浮き彫りにする
【中国マーケット点描】
中国と日本では、人間関係を潤滑にするのに欠かせない「贈答」にも意外に大きな価値観の違いが隠れています。中国の取引先への手土産で悩んだことがある方は必読!中国人の「贈り物」意識が垣間見れるリアルなエピソードをご紹介します。
金額=気持ち 日本と全く違う中国のプレゼント文化
日本の自動車メーカーに勤務する女性は、最近中国に出張するようになって、中国人が日本人と違う点を2つ見つけたという。
1つは「寝るのが早い」ことで、2つ目は「高額のプレゼントをくれる。そこまで親しくないのに、月給1カ月分くらいの物をくれる。しかも時々値札がついている」。彼女は、「中国人 早寝 なぜ」「中国人 プレゼント 値札」で検索した結果、私の個人ブログを見つけ、メッセージをくれた。実は私も中国で暮らし始めた当初、この2点に少々驚いて、ブログに書き記していたのだった。
特に「贈答」は、実際に中国人と付き合う機会が出て来ると、疑問点が噴出するトピックだ。出張時に渡す手土産から始まり、何かのお祝いごと、そして香典……。私自身も何かあると周囲に聞き回って解決してきた。時には中国人の答えが一つでないこともあるので、全てがここに書いてある通りではないかもしれないが、参考にしてほしい。
「心ばかり」「ちょっとした」贈り物は失礼
その国特有の文化や、文化の違いが大きい分野を知るには、言語の教科書が役に立つ。例えば私が使っていた中国語のテキストでは、基本的なあいさつ、自己紹介の次のトピックが、「買い物での値切り交渉」だった。
逆に、私が勤務していた中国の大学で日本語学科の学生が使っていた「日本事情」の教科書では、「日本の贈答文化」が1つの単元として取り上げられていた。
「つまらないものですが……」
「実家から果物がたくさん届いて、食べきれないのでどうぞ」
日本人は人に何かをあげるとき、このように「大したものではないですが、迷惑でなければもらってください」と、どこまでもへりくだることが多いが、中国は全く反対で、「あなたのために、わざわざ準備した」感を出すのが正解とされる。
日本なら「実家でとれたリンゴ」というところを、中国では「リンゴの名産地で取れた最高級の品種」と講釈することで、相手をいかに大切に思っているか強調するのだ。
もし中国人に、「食べきれないからどうぞ」と言うと、「いらない物をくれた=見下されている」と解釈されるリスクがある。だから中国人向けのテキストでは、誤解を避けるため、「日本人は、高価な物をあげる場合でも、受け取る側の負担感を軽減するために謙遜する」と解説している。
値札付きプレゼントの意味は?
したがって、中国人にプレゼントを贈るときは、分かりやすい高級感で選んだ方が安全だ。
先日、知人の子供が中国の家庭にホームステイすることになり、ホストファミリーに何を持っていけばいいか、頭を悩ませていた。その場にいた日本人数人は、「地域の特産品」「保存がききそうな食品」など、1000~2000円くらいの手土産を提案したが、中国暮らしが長い2人(私を含む)は、「予算は最低1万円」、かつ、知る人ぞ知る特産品よりは、「(中国人が)誰でも知っているブランド品」あるいは、「家電量販店の袋に入った電気製品」という意見で一致した。
手土産は気持ちだが、「気持ち」の解釈は日中で違う。「物が何であれ、それに込められた気持ち」を重視する日本人に対し、中国人の場合は、物の金額で気持ちを量ることが少なくない。もちろん皆が皆そうではないが、失敗したくないなら、最大公約数に合わせておいた方が無難ということだ。
そして、金額で気持ち表す延長なのか、中国人がくれるプレゼントには、値札がついたままのことが時々ある。かつて、教え子5人から誕生日にもらった腕時計「G-SHOCK」にも2万数千円の値札がついており、大変恐縮した(中国人大学生のアルバイトの時給は、飲食店で100~200円台だ)。しかも教え子たちは、これを日本からわざわざ「代購」していた。中国勤務が長い友人も、上司から新年のお祝いに、数万円の値札がついたグッチのマフラーと、立派な箱に入ったアワビの煮つけ、さらには現金数万円分をもらっていた。
値札の件は、「取り忘れ」か「値段の誇示」か、中国人の間でも見解が分かれるが、しばしば遭遇するので、予算感をつかむには役に立つかもしれない。
大学の教え子5人が誕生日にくれた腕時計には値札がついていた。
しかも、日本で暮らす中国人に頼んで、日本で購入して発送してもらっていた。
悪い意味で中国化する日本人も
中国との付き合いが深くなると、高いプレゼントに加え、「これ、賄賂じゃない?」としか思えない贈答に遭遇することが増え、まじめな日本人は神経をすり減らすことになる。
以前、中国人教師から、「日本では手術の前に医者にお金を渡したりするか」と聞かれた。「お礼として渡す人はいるかもしれないけど、渡さなくても手抜きをすることは考えられない」と答えると、「日本人はすばらしい。中国では、お金を渡さないと色々心配だ」と言う。
こういった文化は、学校教育でも蔓延している。象徴的なのが、9月10日の「教師の日」で、小学校だと保護者が担任の教師にプレゼントを贈る。私は日本の化粧品キットなどを準備していたが、周囲の親が「ギフト券」など現金に近いものを贈っているのを見て、こちらも次第にプレゼントが高額化していった。中国は日本と違い、一般的にクラス替えがないため、その学校に在籍する限り、卒業まで担任が替わらない。先生との関係が学校生活や子どもの将来に及ぼす影響も日本より大きく、「贈り物」が飛び交う土壌をつくっている。
私は教師時代、ある学生の期末試験での不正行為を発見し、単位を認めなかった。その後出勤したら、机に学生からの手紙があり、「母親が吉林省から運んできたお米を受け取ってください。今日はお米だけですが、後日改めてお礼をしますので、今回は助けてください」と書いてあった。びっくりして足元を見ると、10キロはある米袋がある。余計に腹が立ち、「二度とこういうことはしないでほしい」と返した。
別の学校の日本人教員は、定期試験で回答欄に現金が貼られたテスト用紙を受け取った。就職が決まっているので、卒業しなければいけないと泣きつかれたそうだ。
中国で働く日本人が集まると、「日本人にこういうことをやると、逆効果だよねえ」という話になるが、こういう習慣に慣れてしまい、中国人から「あの人は悪い意味で中国に適応してしまった」と言われる日本人もいる。郷に入っては郷に従えと言うものの、さじ加減は難しい。
中国の大学を退職する際に受け取った包装箱。中身はティッシュ箱だった。
同僚曰く、「プレゼントが間に合わなかったから、今日は形だけ」とのことだった。
簡単には変わらない習慣
日本語学科で学ぶ中国人は、その後日本人と付き合う可能性が高い。だからさまざまな授業を通じて、「ルールをひっくり返そうと無理をしない方がいい」「高価すぎるプレゼントは相手を戸惑わせる」と説明しているが、長年積み上げてきた行動スタイルは簡単には変わらず、私の家に遊びに来る中国時代の教え子たちは、常にたくさんの手土産を持参し、どうかすると、「同級生の〇〇さんから、先生にプレゼントを持って行くように頼まれました」と、人の分まで持ってくる。
そして日本人の多くが、こういう行為に若干引いてしまうのと同じく、私たち日本人が良かれと思って用意した手土産が、相手を困惑させることもある。出張や会食などで、こちらが何か用意する際は、現地事情に詳しい人に事前に相談することをお勧めしたい。
浦上 早苗(Sanae Uragami)
大学卒業後、新聞記者12年半。その後、中国政府奨学金を取得し、2010年に中国・大連の博士課程に国費留学。現地の小学校に通う息子と留学生寮で二人暮らしを始める。
2012年から2016年まで少数民族向けの国立大学で日本語教師。
現在は中国語と英語の経済ニュース翻訳・編集、ライター。ニュース翻訳で中国全体の状況を把握しつつ、大学で中国学生のリアルな声を聴けるのが強み。
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