中国マーケティングラボ

世界の化粧品メーカーが狙う「化粧をしない中国人」 高い美への関心、化粧品は”普及前夜”【中国マーケット点描】

元中国国立大学日本語教師の翻訳ニュースライター 浦上早苗さんが、
中国消費者のリアルから中国マーケットの今を浮き彫りにする
【中国マーケット点描】

 

日本に比べるとあまり化粧をしないと言われてきた中国女性ですが、最近はかなり変化してきているようです。中国女性の化粧事情と盛り上がり始めたメイクアップ商品市場のリアルな今をご紹介します!

 

中国の大学勤務時代の同僚たち(2016年撮影)他の学部に比べ、おしゃれ度がかなり高い

中国の大学勤務時代の同僚たち(2016年撮影)他の学部に比べ、おしゃれ度がかなり高い

 

 

2009年に中国に留学した際、担任教師がすっぴんなのに驚いた。彼女の年齢は私より1歳上の36歳(当時)。「化粧はたしなみ」「人と会うときは口紅くらい塗れ」と言われる日本に育ち、産後の入院中も化粧をしていた私には、教壇に立つ人が全くのノーメイクというのはちょっと信じられなかった。

 

 

大学生の化粧率は5%

 

中国女性は日本ほど化粧をしない、という声を最近よく聞く。ただ、20~30代前半では、5年前に比べると、化粧人口は増えている。ただ、日本のように「化粧は女性のたしなみ」という考えはなく、する人もベースメイクよりポイントメイクを重視しているように見える。

実際、若い女性の化粧普及率はどの程度なのか。二級都市の大連(日本で言えば札幌や福岡程度の都市)だと、大学入学時点で化粧をしている女性はクラスに1~2人、割合にすると5%くらいだ。中国の中高生は、「大学に入ったら何でも自由だから、それまでは勉強だけに打ち込め」という教育を受けている。大部分の高校の制服はジャージ、「校舎に鏡がない」学校すらある。中国の大学に赴任したばかりの日本人教師は、1年生の学生たちを見て、「土から掘り出したばかりのジャガイモのようだ」と言った。

そんな中で、比較的早くから化粧をするのは、だいたい朝鮮族だ。K-POPなど韓国文化に触れる環境が多いからかもしれない。

学年が上がるとともに、化粧率もそれなりに上昇していく。ナチュラルメイクではなく、まぶたや口紅に濃い色を乗せてくるので、私もすぐに気づき、「あら? 化粧始めたの?」と尋ねることがあったが、そのきっかけはしばしば、「化粧好きなルームメートや親友から道具を借りてやってみた」だった。そして1、2週間したら飽きて、すっぴんに戻ることの方が多かった。日本人女性は「一度化粧したら、すっぴんでは外を歩けない」とよく言うが、中国のほとんどの大学生にとっては、化粧は“特別なもの”なのだ。

社会人になると化粧比率はぐっと上昇するものの、しなくてもいい派もまだまだ多い。

 

大学のゼミ生たち。化粧をしているのは1人

大学のゼミ生たち。化粧をしているのは1人

 

 

化粧はしなくても画像加工アプリは必須

 

中国人が化粧をしない理由については、さまざまな分析がされている。有力な理由として、「自然美を好む文化」が挙げられているが、中国人が「自然美」を好むのは否定しないとしても、日本も欧州もその点では大きな差はなく、化粧をしない根拠とするには弱いと感じる。

加えて言えば、彼女たちは化粧はせずとも、写真加工アプリで誰だか分からないほど美しくなる。友人夫婦は、結婚記念写真の加工に1万元近く払い、妻だけ別人のようになった。少なくとも、ありのままの自分よりも美しくなることへの関心、投資が小さいわけではないようだ。

中国人女性が日本人ほど化粧をしないのは、単純に「周囲の人の多くが化粧をしていないから」ではないだろうか?

実は私が勤めていた中国の大学では、学部・学科によって教員間の「化粧比率」に明確な差があった。教職員の半分近くが女性なのだが、外国語学部(日本語学科、英語学科、韓国語学科)の女性教員はほぼ全員が化粧しているのに対し、それ以外の学科の女性教員は7~8割すっぴんだった。

外国語学部の教員は、若い頃から学習言語の国の文化に触れる機会が多く、ほぼ全員がその国に留学・居住経験を持つ。ファッションや美容で影響を受けていることは想像に難くない。

そういえば数年前に日本に留学した中国人の教え子も、「日本に行ってから、わき毛を処理するようになった」と話していた(わき毛を処理しない中国人女性は珍しくない)。
「皆がしているわけではないから、自分もしない」というマインドと、その結果である「興味があってもやり方が分からない」という意識が、化粧に消極的な中国人女性の根底にあるのではないだろうか。

 

 

日本の20~30年前の似た状況?

 

思い返せば、日本だって2~30年前は、化粧する層は今ほど広くなかった。私の大学時代は顔を洗って化粧水をつけるくらいで、メイクはリップ程度。イベントコンパニオンのアルバイトに応募したら、「研修のときは化粧してきて」と言われたので、まともな化粧品を持っていなかった私は、バイトそのものを放棄した。就職活動をきっかけに化粧を始める人がいたが、多数派とは言えず、社会人になって、着るものが変わって、化粧している先輩たちに囲まれて働いているうちに、雑誌を見ながら見よう見まねで覚えていった記憶がある。

改めて調べてみると、書店で広く売られている美容雑誌「VOCE(ボーチェ)」の創刊は1998年、「美的」は2001年。やや後発の「MAQUIA(マキア)」は2004年だ。

日本では制服姿の女子高生も当たり前のようにフルメイクをし、50代に特化したブランドまで売られているが、日本がここまでの化粧大国になったのは21世紀に入ってからだ。今の中国はファッションやカルチャーの面で、バブル前夜の日本と共通点が多い。化粧に関しても同じことが言え、今は“普及前夜”なのかもしれない。

 

 

各国ブランドが押し寄せる中国市場

 

10年ほど前、日本の有名化粧品メーカーの広報担当者が、非常に面白いことを言っていた。
「人間の顔は一つしかない。一つの顔に使える化粧品の数には限界があるから、化粧品市場を拡大するには、使う人の層を広げていかなければならない。簡単なのは年齢層を上下に広げることと、男性を取り込むことだ」

今の日本は、化粧品メーカーのもくろみ通りに進展している。中高生の化粧は普通のこととなり、男性向け化粧品やエステも市場を得ている。

しかし、日本の10倍の人口を持つ中国には、化粧をしていない若い女性が大量にいる。
彼女たちの経済力が向上し、美容にお金をかけられるようになった今、猛烈な勢いで伸びる市場で、日本、韓国、欧米、中国ブランドがしのぎを削っている。

 

 

失速する韓国ブランド

 

最近の中国の化粧品市場を簡単に説明すると、「イメージ戦で優位に立つ欧米ブランド、急速に力をつける中国ブランド、急成長後に失速した韓国ブランド、品質が信頼される日本ブランド」といった構図だ。こう書いてみると、自動車市場と変わらない気もする。

欧米ブランドの強さは、シャネルやサンローランの口紅がやたらと雑誌で紹介された20~30年前の日本の状況に似ている。国産ブランドより値段が高いにもかかわらず、いや、高いからこそ外資ブランドは輝きを放っていた

ただし、かつての日本でもそうであったように、これらのブランドを普段使いする人は限られ、より幅広い消費者に浸透しているのが「韓国系」だ。特にアモーレパシフィックは2010年から2015年にかけて、中国での売上高を年50%近いペースで伸ばした。ただし2017年に入ると、中韓関係の悪化でアモーレパシフィックの業績は急失速した。

 

コーセーが中国と日本で販売した雪肌精のキット

コーセーが中国と日本で販売した雪肌精のキット

 

雪肌精の人気は商品名が漢字だから?

 

自動車やスマホ業界と同様、中国ブランドの台頭は目覚ましい。

世界最大のネットセールが行われる2017年11月11日、アリババ系ECサイト天猫の化粧品販売額で、首位が百雀鈴、2位が自然堂と、上位5ブランドのうち2ブランドが中国勢だった(3位はランコム、4位はエスティ―・ローダー、5位はSK-Ⅱ)。※

業界の監督官庁である国家食品薬品監督管理局の担当者はメディアに対し、「中国ブランドの品質が消費者に認められ、価格優位性でも輸入品に勝る結果」とコメント。商品の信認度の向上に加え、盲目的な欧米ブランド志向から脱却し、「アジア人の肌に合ったアジアブランド」を好む消費者が増えていることも、中国ブランドの成長を後押ししている。

日本メーカーはどうだろうか。化粧品は訪日中国人の間で最も人気が高い「インバウンド銘柄」の一つだ。2000年代は日本の化粧品と言えば「資生堂」で、知名度やブランド力で他ブランドの追随を許さなかったが、日本への旅行者が増えるにしたがって、「コフレドール」「アルビオン」「雪肌精」なども広く認知されるようになった。

最近は特に雪肌精人気が高く、雪肌精コーナーに中国語のポップを添えるドラッグストアも多い。コーセー関係者によると、「ある時、中国人の間でよく売れていることに気付き、中国市場をより意識したマーケティングを行うようになった」という。人気の理由は「一番大きいのは、商品名が漢字なので、イメージしやすいのではないか」と分析している。


日本人に比べると、化粧をしない中国人。しかし、この5年でも女性たちのファッションは大きく変わった。スマホの普及で、友達に習わなくても、外国に行かなくても化粧の技術や商品情報を入手できるようにもなっている。「供給が需要を創る」との言葉もあり、情報と選択肢が増えるにつれ、10年後の光景は随分変わっているのではないだろうか。

※TmallにおけるW11の売上ランキングは複数発表されているが、記載は「新浪科技」発表データを参照
http://tech.sina.com.cn/roll/2017-11-13/doc-ifynrsrf4358841.shtml

 

 


浦上 早苗浦上 早苗(Sanae Uragami)

大学卒業後、新聞記者12年半。その後、中国政府奨学金を取得し、2010年に中国・大連の博士課程に国費留学。現地の小学校に通う息子と留学生寮で二人暮らしを始める。
2012年から2016年まで少数民族向けの国立大学で日本語教師。

現在は中国語と英語の経済ニュース翻訳・編集、ライター。ニュース翻訳で中国全体の状況を把握しつつ、大学で中国学生のリアルな声を聴けるのが強み。


 

Weibo公式の中国向け広告コンテンツ拡散支援サービス「WEIQ」

Weibo公式の中国向け広告コンテンツ拡散支援サービス「WEIQ(ウェイキュー)」は
中国向け越境ECや訪日中国人へのプロモーションに最適!

中国SNSのインフルエンサーの影響力を活用し広告コンテンツの拡散を強力にご支援します!

<サービス詳細> https://www.aainc.co.jp/service/weiq/


■関連記事

【中国マーケット点描】

国産品健闘、虚偽値引き露呈…今年の「11.11」を総ざらい
https://monipla.com/china-smmlab/page/w11summary

・シェアサービスはなぜ中国で生まれ、成長するのか
https://monipla.com/china-smmlab/page/china_shareservice

・中国はまもなく国慶節連休突入!今年は「プラス1日」で旅行者は1億人以上増加か
https://monipla.com/china-smmlab/page/china_kokkeisetsu

・極力病院に行きたくない中国人 頼みは日本の「神薬」
https://monipla.com/china-smmlab/page/japanesemedicine

・爆買いの一端を担う「代購」ビジネスは今も健在
  …中国人はなぜ友達に買い物を頼むのか
https://monipla.com/china-smmlab/page/chinasocialbuyer

関連する記事

ページTOPへ

キャンセル

キャンセル