中国マーケティングラボ

海外SNSブロックは「建前」 YouTubeを普通に見ている20代の中国人【中国マーケット点描】

元中国国立大学日本語教師の翻訳ニュースライター 浦上早苗さんが、
中国消費者のリアルから中国マーケットの今を浮き彫りにする
【中国マーケット点描】

 

中国では今も「グレート・ファイアウォール(金盾)」によって、海外SNSへのアクセスが遮断されていますが、実は今の中国の若いネットユーザーはかなり海外情報に詳しくなっているといいます。
中国若年層ネットユーザーは海外SNSをどう利用しているのでしょうか?
リアルな実態を観察しました。

 

海外SNSブロックは「建前」 YouTubeを普通に見ている20代の中国人【中国マーケット点描】

 

中国のインターネット規制が厳しいことは広く知られているが、その実態は中国と日常的に接点がある人でないと、なかなか分からない。しかも、日本の通信キャリアの国際ローミングサービスを使えば、中国でも日本同様のネット環境が提供されるので、数日の旅行くらいでは、中国のインターネット環境を体感しづらい。

だが、現地ホテルのインターネット回線や公衆WiFiにつないだ途端、FacebookやLINEに全くアクセスできなくなった、という経験を持っている人も少なくないだろう。

 

 

アンドロイドスマホにGoogle Playストアが入っていない

 

中国政府は、自国の体制を揺るがすような情報を検閲するシステム「グレート・ファイアウォール(金盾)」に莫大な労力を注ぎ込み、人海戦術で“不適切”な投稿や投稿者の監視や削除に当たっている。他国の人間にとって、最も分かりやすい例は、「検閲の手が及ばない」海外SNSへのアクセスそのものを遮断していることだ。

私たちが当たり前のように使っているTwitterやFacebook、Instagramは、中国のネット回線からはアクセスできない。グーグルは2010年に中国政府の検閲方針に反対して中国から撤退、以後、Gmailを含めほとんどのサービスが使えない。グーグルのサービスであるYouTubeももちろん見られない。中国で売られるアンドロイドスマホには、アプリをダウンロードするGoogle Play ストアがインストールされていない。

「グーグルと同期できないアンドロイドなんて、何の価値があるのか」と私たちは思うが、現地の人たちは中国独自のアプリストアを使っている。LINEは当初、「中国版」アプリもあったが、数年前に突如、使えなくなった。日本の国民的ネットインフラYAHOO! JAPANは検索やニュース閲覧はできるが、アクセスできないサービスが徐々に増えていると聞く。

 

 

中国の独自サービスが海外SNS代替

 

普通の日本人だと、こういう状況になれば日ごろのコミュニケーションが成り立たない。今は、上記のようなサイトへのアクセスを可能にするVPN(Virtual Private Network)というソフトウェアの存在が中国居住者の間でも広く知られているが、2010年代前半はVPNの使い方を知る日本人は少数派で、多くは日本の情報網やコミュニティーから遠ざかっていった。

中国人がどうかというと、ご存知の通り、ブロックされている海外サービスの中国版が存在するため、あまり不便さは感じない。FacebookとLINEの要素を持つチャットアプリの微信(WeChat)は10億人のユーザーを抱え、Twitterの代替ツールとしては微博(Weibo)がある。少なくとも友人と交流し、国内の情報を得るには、何の支障もないのだ。

 

ビリビリ動画で『君の名は。』に登場する六本木の美術館や周囲の飲食店を案内

ビリビリ動画で『君の名は。』に登場する六本木の美術館や周囲の飲食店を案内

 

 

趣味や勉強に不可欠な海外サイト

 

それでも、中国人の20代の大半は、スマホアプリにVPNを入れている。中国政府はこのVPNに対する取り締まりも強化し、昨年は多くのVPNサービスが使えなくなった他、アップルがアプリストア「AppStore」から、VPNアプリを削除することにもなった。しかし既に、中国のAppStoreではVPNアプリの販売がひっそりと再開されている。

VPNサービスを使う若い中国人たちの主な目的はYouTubeを見ることだという。中国にもアリババ系列の動画サイトがあるが、海外の芸能人の情報はYouTubeの方が多く手に入る。

筑波大学の学生、やぷらすさん(ハンドルネーム)は2017年のある日、Twitterのフォロワーが1日で500人増えているのに驚いた。しかもその多くが日本人ではない。新たなフォロワーとやり取りする中で、やぷらすさんが趣味で書いているイラストが中国で大きな人気を呼び、Twitterのアカウントまでメディアで紹介されたことが分かった。やぷらすさんと接触するために、わざわざTwitterのアカウントを取得した熱心なファンも多くいた。好きな歌手やアニメの情報を得ようとする中国人の熱意は、政府の金盾より強い。

また、卒業を6月に控えた日本語専攻の大学生男性は「VPNがないと、卒論の資料が集められない」と話す。卒論のテーマが日本に関連しているため、関連資料の収集や検索でも日本のサービスを使う必要がある。彼は、「英語や日本語専攻の学生はもちろん、理系の学生でも、研究のための資料や人を探すために、海外サイトの利用は欠かせない」と話す。

 

ナスダック上場を祝う弾幕であふれるビリビリ動画の画面

ナスダック上場を祝う弾幕であふれるビリビリ動画の画面

 

 

中国サイトでも海外情報は充実

 

とは言え、積極的に海外の情報を取りに行くにはある程度の語学力が必要となる。海外の情報を探す最初の段階ではやはり中国のネットサービスを使う人が多い。ここにも情報は膨大にあり、「中国人視点」である分、旅行などでは特に使い勝手がよいからだ。

例えば、海外のドラマや映画について知りたい場合は、豆瓣電影(https://movie.douban.com/)であらすじやレビューを見ることができる。このレビューで何を見るかを決め、Netflixでコンテンツを視聴する人も増えている。

 

また、2018年3月29日にナスダックに上場した中国企業「BiliBli」が運営する動画共有サイト「ビリビリ動画」は、以前はアニメに特化していたが、最近はコンテンツの幅が広がり、日本の旅行体験動画が多数公開されている。特に、アニメの「聖地巡礼」をテーマにした動画は数えきれないほどあり、最寄り駅やチケットの買い方、飲食店などが細かに説明されている。

 

訪日旅行と言えば、個人旅行情報サイト馬蜂窩(http://www.mafengwo.cn/)も中国人の有力な情報収取手段の一つ。「東京カフェ巡り」「青森・酸ヶ湯温泉旅行」など、海外旅行としてはかなりマニアックな分野まで、旅行記が掲載されている。

参考:日経記事「外国人客、青森県へ続々 アクセス向上など奏功」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25157360X21C17A2L01000/

 

中国人旅行者が急増している青森。 中国の個人旅行情報サイトでも詳細な情報が紹介されている。

中国人旅行者が急増している青森。
中国の個人旅行情報サイトでも詳細な情報が紹介されている。

 

 

情報統制と経済グローバル化の矛盾

 

中国は今、かつてないほど徹底的な情報統制を図っているが、一方で、経済や人材の国際化も推進しており、両者はどう見ても矛盾している。留学や仕事で海外に出ると、これまでとは違った視点で自国を見るようになり、母国の不便さも認識する。

外国で友人ができれば、中国ではアクセスできないSNSやサービスを使わざるを得なくなり、中国に帰国してからも海外サイトに接続しないと、コミュニケーションや情報収集で支障をきたすようになる(筆者も2016年に日本に帰国したが、今も微信を使わない日はない)。

日本メディアは、「中国はFacebookやグーグルへのアクセスをブロックしている」と説明するが、それは建前となりつつある。そもそも、中国人がこれだけ海外に出ていくようになった時代に、情報だけをグローバル化から切り離すのは、いかなる国家権力をもってしても不可能だろう。

 

 


浦上 早苗浦上 早苗(Sanae Uragami)

大学卒業後、新聞記者12年半。その後、中国政府奨学金を取得し、2010年に中国・大連の博士課程に国費留学。現地の小学校に通う息子と留学生寮で二人暮らしを始める。
2012年から2016年まで少数民族向けの国立大学で日本語教師。

現在は中国語と英語の経済ニュース翻訳・編集、ライター。ニュース翻訳で中国全体の状況を把握しつつ、大学で中国学生のリアルな声を聴けるのが強み。


 

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