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「中国進出の成功事例」味千ラーメンの苦戦。背景にはテクノロジーと消費者の成熟【中国マーケット点描】

元中国国立大学日本語教師の翻訳ニュースライター 浦上早苗さんが、
中国消費者のリアルから中国マーケットの今を浮き彫りにする
【中国マーケット点描】

 

かつては中国進出の成功事例として名前が挙がっていた「味千ラーメン」。
近年苦戦を強いられている裏には中国外食業界の大変動がありました。
中国の若い消費者のニーズがどう変化しているのか?その現状の一端を見てみましょう。

 

「中国進出の成功事例」味千ラーメンの苦戦。背景にはテクノロジーと消費者の成熟【中国マーケット点描】

 

中国に進出した日本の外食企業は多くあるが、成功事例はあまり出ていない。ロイヤルホストやリンガーハットといった全国チェーンも数年で撤退し(リンガーハットは中国本土の店舗を閉鎖後、香港や台湾に進出している)、全国の都市部に広く展開しているのは、吉野家やサイゼリヤなど一握りだ。

2000年以降に中国進出し、成功した企業の代表は、2003年に上海に中国1号店をオープンしたサイゼリヤだろう。当時中国に出店する日本企業の多くが、「高所得者層」をターゲットする中、サイゼリヤはさまざまな工夫で「庶民にも通いやすい価格設定」を実現し、順調に店舗数を拡大。最近も中国メディアが人気の秘密を検証する記事を配信するなど、失速の兆しは見えない。

一方、サイゼリヤより早い1990年代に中国に進出し、現地でも高い認知度を誇るのは吉野家と味千ラーメンだ。とりわけ、熊本県発祥の味千は「地方中小企業の成功例」として何度もメディアに取り上げられてきた。

だが、味千がこの数年中国で苦戦していることは、あまり知られていない。売上高、店舗数、純利益ともに減少が止まらず、中国の業界関係者からは「ブランドの陳腐化という根本的課題を乗り越えられない典型的な企業」とまで指摘されている。

 

かつては「中国ファストフード企業トップ50」で4位にランクインした味千中国

 

そもそも、味千はどんな企業なのか。味千ラーメンは九州を中心に国内で約80店舗体制。これに対し、中国では日本の店舗数の8倍の約630店舗、中国以外の海外でも約80店舗を展開している。ただし、国内店舗の運営企業である重光産業(熊本県)は、中国の経営について、フランチャイズ契約を結んだ香港の企業「味千中国」に任せ、原料提供や品質管理でサポートする体制を取っている。味千は現地事情を熟知したパートナー企業に采配の大部分を任せたことで、中国で急成長できたと言える。

1996年に香港に進出した味千中国は瞬く間に中国本土でも店舗を増やし、中国の業界団体が2010年に選出した「中国ファストフード企業トップ50」で、米ヤム・ブランズ(ケンタッキーフライドチキン、ピザハットなどを運営)、米マクドナルド、台湾Dicosに次いで4位にランクインした。

参考:熊本発「味千ラーメン」が中国に広まった理由
http://k-tsushin.jp/interview/aji1000/

 

 

味千だけじゃない中国進出先駆者たちの苦戦

 

味千中国は、店舗数が約670店だった2015年3月、「5年で1000店舗体制にする」と公表。しかし現在の店舗数は649店と当時より減少。2017年前半の純利益は前年同期比80.9%減少し、目標達成への道筋が見えない状況となっている。

実は味千中国の失速は最近始まったことではなく、業績のピーク時からほころびが見えていた。

2011年、厨房で作っていると説明していた豚骨スープが、実は濃縮液を薄めたものだと判明し、行政処分を受けたことでブランドイメージが悪化。その後間もなく尖閣諸島問題が勃発し、味千中国はメニューや内装の「日本色」を薄めるなど、戦略調整を余儀なくされた。

とは言え、現地の業界関係者らは「これらのダメージは挽回可能だった。より大きな問題は、消費者ニーズの変化に対応できなかったこと」と指摘する。

味千中国の苦境は日本人にとって残念なことだが、実は外食チェーンの苦境は同社に限ったことではない。米マクドナルドは2017年に中国事業を現地企業に売却。ケンタッキーを運営するヤム・ブランズも、2016年に中国事業をアリババ金融子会社などに売却した。2010年前後に中国ファストフードチェーンランキングで上位を占めていた外資企業は今、どこも苦戦し、戦略の見直しを迫られている。

 

 

不振の原因は「中国消費者の成熟」

 

1990年代に中国で成長した外食チェーンの不振の原因を説明するのは、そう難しいことではない。一言で言えば「中国消費者の成熟」だ。

マクドナルドやケンタッキー、味千ラーメンはローカル企業に全国展開するノウハウが乏しい時期に進出し、経済の成長の波に乗って拡大した。だが、現地企業が多様な選択肢を提供できるようになり、同時に消費者の成熟が始まると、個性のない店とみなされるようになった。日本のファミレスと同じ道をたどっているのだ。

特に激戦区となっているのが「中華料理ファストフード」。乱立するショッピングモールには、必ずと言っていいほど大きなフードコートがあり、多種多様な麺類の店が並ぶ。「中国人の好みに寄せた日本ラーメン」もこのカテゴリで埋没してしまった。

北京大学や清華大学など有名大学が立地する北京・中関村にある味千ラーメンを訪れた女性(25)は、「味千は学生時代に大連でも時々行っていたから安心感がある。けど、北京には無敵家という日本風ラーメンの店があって、私はそちらの方が好き。うちの近くには大規模な飲食街があって、そこにも日本ラーメンの店が3、4店ある」と話した。

 

 

オンラインフードデリバリーの台頭

 

この2、3年で急速に普及したオンラインフードデリバリーも外食業界の構図に大変動をもたらしている。アプリのおかげで個人食堂のような小さな店も出前の注文を取れるようになり、アプリ運営企業がクーポンを大量に発行するので、外食より出前を選ぶ消費者も多い。

味千自体も、フードデリバリーには力を入れている。先に登場した女性も、「17時前に入店したら、店で食べている間に、出前のバイクが4台やってきた」という。ただし、小さい企業にチャンスを与えるオンラインフードデリバリーの登場は、既存チェーンにとってはむしろ逆風だろう。

 

 

中国の若い消費者は「SNS映え」でメニュー選び

 

「消費者のニーズに対応できていない」と評される中国の味千。この文脈における「消費者」は、90後(1990年代生まれ)を指す。若い世代にとって、飲食はテクノロジーと深く関わっており、フードデリバリーだけでなく、食べログのようなクチコミサイトの影響力も大きい。結果、飲食店はクチコミサイトでの高評価を狙い、「ユーザー体験」を競い合うようになっている。サービスの向上もさることながら、日本でいう「インスタ映え」を意識したようなメニューも人気を集めている。

 

北京の女性会社員、張新陽さん(27)おすすめの練炭チャーハン

 

昨秋、北京の女性会社員、張新陽さん(27)と2日連続で食事をした際、初日の夜に案内されたのは北京料理店だった。北京ダッグがメーンと思いきや、彼女が勧めたのは「練炭チャーハン」。

昔ながらの練炭にそっくりなチャーハンで、店員がテーブルに置いた後、火をつける。練炭にちなんだパフォーマンスのようで、私たちは皆、動画と写真を撮ったが、結局ほとんど残した(どうやって味付けしたのか、全くおいしくなかった)。

北京の女性会社員、張新陽さん(27)お薦めのカラフルな餃子

翌日夜は、私が水餃子をリクエスト。すると張さんはスマホで近くの餃子店をリサーチし、タクシーで15分ほど走ったところにある、欧州の有名サッカー選手お気に入りと紹介されている店に連れて行ってくれた。この店のウリの一つは、追加料金を払えば餃子の皮に色をつけられる点。「恋愛運がアップする」と説明されたパステルカラーの皮もあり、値段も水餃子にしては高めだが、多くの人が注文していた。

拡散力のある若い女性に足を運んでもらうに、レストランもSNS受けするネタを色々仕込んでいるのだろう。チャットアプリ微信でお店のアカウントとつながると、クーポンやお知らせを受けられる店も多く、この仕組みはLINEとよく似ている。

左写真の女性が張新陽さん(撮影:筆者)

 

 

スマホとSNSで縮まるカルチャーギャップ

 

日本外食企業の中国進出成功例は多くない。全てを日本基準でやろうとすれば、中国人にとって普段使いできない価格設定になるし、食材の物流体制を整えたり、パートナーとのコミュニケーションなど、ハードルがいくつもあるからだ。日本の外食大手の試行錯誤は今後も続くのだろう。

一方、スマホ時代の到来で、店を選ぶ基準、店に入ってやることといった消費者の行動パターンはカルチャー差が小さくなっている。スマホで調べ、クーポンを使い、写真を撮り、SNSに投稿する若い消費者の姿は、日中ほとんど変わらない。

テクノロジーは、早い時期に中国に進出してライバル不在の中で成長した飲食チェーンの足場を溶かし、新規参入者や挑戦者に道を開いている。同様に外国企業のハンデを軽減するツールにもなっていくだろう。

 

 


浦上 早苗浦上 早苗(Sanae Uragami)

大学卒業後、新聞記者12年半。その後、中国政府奨学金を取得し、2010年に中国・大連の博士課程に国費留学。現地の小学校に通う息子と留学生寮で二人暮らしを始める。
2012年から2016年まで少数民族向けの国立大学で日本語教師。

現在は中国語と英語の経済ニュース翻訳・編集、ライター。ニュース翻訳で中国全体の状況を把握しつつ、大学で中国学生のリアルな声を聴けるのが強み。


 

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