<筆者プロフィール>
和田 亜希子(Akiko Wada)
都市銀行、検索エンジン等を経て2001年独立。
企業からの受託でクチコミを活用したマーケティング、アフィリエイト・プログラム導入運用支援などを行うかたわら、「東京ビアガーデン情報館」「台湾温泉ガイド」などの専門サイトを企画運営。
主な著書「アフィリエイト・マーケティング実践マニュアル(翔泳社)」「ひとつの ブログで会社が変わる(技術評論社)」「ミニサイトをつくって儲ける法(日本実業出版社)」。
<中国向けビジネス入門編>は、中国留学経験を持ち、中国のインターネット、ソーシャルメディア事情に詳しい和田亜希子さんが、毎回中国向けビジネスに取り組むマーケターのための情報を分かりやすくまとめてご紹介する、読んですぐに実践できる「中国マーケティング」入門ガイドです!
お隣の国とはいえまだまだ誤解も多く、「知ってびっくり!」なことも中国に関しては多々あります。
そのひとつがインターネット普及状況。実は中国は既にインターネット先進国で、スマホでのネット接続率も高く、EC利用者も急増しています。
「でもネットで注文した商品、ちゃんと届くの?」
とよく聞かれますが、エスクローサービス(「PayPal」的決済サービス)利用により、支払ったけどモノが届かないということは基本なく、また北京・上海など大都市なら、注文した翌日にはもう着荷してしまうことも珍しくありません。法規制の違いもあり、タクシー配車アプリのように日本以上に利用が進んでいるジャンルもあります。
中国のインターネット利用状況や利用環境は日本より大幅に遅れている──。そんな誤解を解くためにも、今回まずは基本的な統計データを見ていきましょう。
こうしたデータはきっと、「タオバオ出店」などインターネット直販を模索する場合でも、あるいは商品やブランドの認知向上、来店促進などのために広告やソーシャルメディア活用を検討する場合でも、まず大前提として必要になるものだと思いますので。
これらの調査データを定期的に行い発表しているのが、略称「CNNIC」ことChina Internet Network Information Center(中国互聯網絡信息中心)です。日本ではJPNIC(社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター)が国内でのグローバルIPアドレスの割り当てなどインターネット運用のベースとなる業務を行っていますが、それらを中国国内で担っている公的な組織です(「互聯網絡」はインターネットの意味)。
インターネット全般に関する調査研究も行っており、毎年2回、中国国内のインターネット利用状況に関する調査を行い統計データを発表しています。
もっとも新しいデータは、2016年8月の「第38次中国互聯網絡発展状况統計報告」。
関連する日本語のニュースがありますので、よろしければこちらも読んでみてください。
●中国のネット人口、7億人を超える、スマホだけのユーザーが激増 | INTERNET Watch
●中国インターネット発展状況統計報告 | SciencePortal China
いくつか項目をピックアップして見ていきましょう。
※当記事内のグラフ画像はすべて、中国互聯網絡信息中心(CNNIC)の公式サイト上で公開されて
まずインターネット人口の推移と、全人口に占める比率です。
下記グラフは、2016年8月発表の「第38回中国インターネット発展状況発展報告」と2012年1月発表の「第29回中国インターネット発展状況発展報告」の数値を合体させています。2012年以降は12月だけでなく6月のデータも発表されていますが、6月分は省きました。
2015年12月時点のインターネット利用人口は、全人口の50.3%にあたる6億8826万人。この年初めて全人口の過半数を越えました。2016年6月時点では7億人を突破しています(51.7%)。
最も増加率が大きかったのは、一年で1.5倍となった2007年です。2014年以降の増加率は1ケタ台と落ち着いてきましたが、それでも毎年5~6%、人口にして毎年3, 000万人以上が増えています。
ちなみに日本のインターネット利用に関する統計データを発表しているのは総務省で、「通信利用動向調査(平成27年調査)」によると利用人口は1億0046万人、比率は83%となっています。
「中国は2人に1人だからまだまだ遅れているな」
と思いがちですが、日本と異なる状況がひとつあります。
広大な国土の中国では、都市部と農村部の格差が非常に大きいのです。都市部への過度な人口流入を防止するため居住地の移動の制限があり、経済力という点でも大きな差があります。
既に都市化率は50%を越えていますが、都市部と農村部にわけて見たほうがより正確な理解となるでしょう。
都市部のインターネット人口は5億1900万人、そして農村部が1億9100万人という数値になっています。全ネット人口に占める割合はそれぞれ73.1%、26.9%で、この比率は2011年と比べても大きな違いはありません。
それでは都市部・農村部それぞれでのインターネット利用率はどの程度なのでしょうか。
国家統計局の発表によると、2015年末の人口13億7462万人のうち、都市部人口が7億7116人(56.1%)、農村部人口が6億346万人(43.9%)だそうです。
先ほどの都市部・農村部のネット利用人口とこのデータを組み合わせるとこうなります。
都市部でのネット利用率は64%、農村部では32%とちょうど倍の差があります。異なる統計のデータを組み合わせているため、この数値が正しいかどうかはわかりませんが、ひとつの目安にはなるでしょう。
ちなみに日本でネット利用率が64%前後だったのは2003年末(64.3%)です。
この記事を読んでいる方の多くは既にインターネットを利用していたと思いますので、当時の記憶をたぐってみてください。
1997年に開業した楽天市場はショッピングモールとして一強の地位を確立し、Amazonもその3年前に日本上陸を果たしています。翌2004年は「ブログ元年」とも言われ、それまで一般ユーザーにとっては情報収集ツールが主用途だったインターネットは、誰もが気軽に情報発信できる空間となり、その後のソーシャルメディア時代へと続きます。
現在「ガラケー」と言われる従来型携帯電話での「モバイルネット利用」も増えていましたが、画面の小ささやパケット通信料金の問題もあり、やはりまだパソコンでの利用が主だったかと思います。
中国では既に現時点でスマホからのネット利用率が非常に高く、またソーシャルメディア活用が非常に盛り上がっています。日本で20年近くかけてじわじわと歩んできたインターネットの進化・発展の歴史を、はるかに短い期間で凝縮体験しているといえるでしょう。そのあたりのデータも見ていきましょう。
こちらはネットユーザー全体に占めるモバイルネットユーザーの比率です。
2012年時点ですでに7割超と高く、現在は9割を超えています。
日本でスマホユーザーが過半数を越えたのは2015年ですが(総務省調査)、中国都市部のスマホ普及率はそれより高い数値となっています。
●中国都市部でのスマホ保有率は日本の約2倍の93.1%、スマホユーザーのタブレット保有率は日本の約3倍の47.3.% | MarkeZine(マーケジン)
●スマホ普及率74%!中国最新動向と企業進出のカギ | Bizコンパス
背景には格安スマホの存在があります。日本でも昨年あたりから一部出回り始めましたが、中国では安価で購入できるAndroid端末が多数流通し、またSIMフリーゆえ中古端末の売買も盛んに行われています。通信費も安く、「スマホ」がネット利用の主端末となっているのです。
パソコンを利用してのネット接続は、自宅からが1位となっています。
一昔前の中国では、若い人中心にネットカフェからの接続が圧倒的に多かったのですが、こちらも経済成長と格安国産パソコンの登場により、家庭へのパソコン普及が進みました。
CNNICのインターネット利用動向調査では、ユーザー属性についても詳細データが発表されています。下記以外にも職種、収入などのデータがありますので、興味ある方は公式サイトの報告書(PDF)をご覧ください。
こちらはインターネットの利用用途です。
圧倒的に多いのが「即時通信」つまり「オンラインチャット」です。
日本でも若年層中心にLINEユーザーが急増中で、中高生などは帰宅後も長時間、友人とチャットをして過ごしていますよね。中国では「微信(ウェイシン)」「QQ」のシェアが高く、知り合いになると、メールアドレスや携帯電話番号よりもむしろ「微信アカウントを教えてくれ」と言われることも多いほどです。
動画・音楽の視聴に利用するユーザーも多いことがわかります。
利用されたことある方もいるかもしれませんが、中国にはドラマや映画を基本無料で見ることができ、音楽もダウンロードして聞き放題というサイトがいくつもあります。
オンラインショッピングを利用していると答えた人の割合は63.1%となっています。この数値、日本と比べるとどうでしょうか。
●総務省 平成27年版 情報通信白書|インターネットショッピングの利用状況
総務省の2015年の調査では、72.2%が利用すると答えています。
こちらも異なる調査方法でのデータゆえ単純比較できるものではありませんが、ひとつの参考にはなります。日本よりは少ないものの、2015年6月の56.0%と比べ6%増えており、増加率から判断すると数年以内には日本と同水準になることが考えられます(日本は増加率も鈍化)。
また先述したように都市部と農村部ではインターネット利用という点でも格差が大きく、都市部だけに限った場合には日本と同水準のオンラインショッピング利用率となっている可能性はあります。2013年に北京で生活していたことがあるのですが、体感値では日本以上にオンラインショッピングが普及・定着しているように感じられました。私自身、町中の店舗で買うよりもはるかに商品種類も豊富で価格も安いため、日本だったらネット利用しなかったような日用品まで、ネットで入手していたものです。
このあたりはまた後日詳しく書きたいと思いますが、リアルの流通自体が発展途上の段階で「インターネット時代」が訪れた、中国特有の環境もありそうです。
+ + +
今回ご紹介した統計データは2016年6月時点のものです。
2016年12月時点の最新統計データもいずれ下記ページにて発表されますので、興味ある方はぜひPDFをダウンロードしてご覧いただければと思います。
でも数字はあくまで数字。
そこから中国のインターネット空間の“熱気”はなかなか伝わってはきません。中国の“網民”ことネットユーザーが、インターネット上でどう情報収集をし、何を楽しみ、どんな情報をシェアし、何に関心を示しているのかは、やはり「現場」を見てみなくてはなかなかつかめません。
次回からは、中国の主要ポータルサイトやソーシャルメディアなどをご紹介いたします。
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都市銀行、検索エンジン等を経て2001年独立。
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