中国人インフルエンサー動画で売上UP!中国越境ECで躍進するエンジェリーベの動画プロモーション戦略とは?【企業担当者に聞くSMM最前線】
ソーシャルメディアマーケティング(以下SMM)に積極的に取り組んでいる企業に、現場でのSMM活動について聞くインタビューシリーズ【企業担当者に聞くSMM最前線】。今回は、株式会社エンジェリーベの岩本 眞二社長に、中国向けに実施している、インフルエンサーを活用した動画プロモーションについてお聞きしました。
株式会社エンジェリーベ 岩本 眞二 社長
マタニティウェアやベビーウェアの製造と販売を手掛けている株式会社エンジェリーベ。1989年の設立以来、国内で通販や直営店を展開してきた同社は、2016年3月に中国への越境ECを開始し、海外市場の開拓に乗り出しました。中国におけるプロモーションの一環として、現地のインフルエンサーを起用したプロモーション動画を中国のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「微博(ウェイボー)」で配信したところ、視聴回数が2週間で150万回に達し、配信翌日の売上高が通常の約2倍に増えるなど、大きな成果を上げたそうです。中国でマタニティウェア市場の創出を目指すエンジェリーベが取り組む動画プロモーションの戦略について、同社の岩本 眞二 社長にうかがいました。
中国には未開の巨大市場がある
インタビュアー:アライドアーキテクツ事業企画室室長 小川 裕子
小川:本日はよろしくお願いします。早速ですが、御社の中国事業についてうかがいます。これまでは主に国内向け通販や直営店の運営に取り組んでいらっしゃいましたが、今年3月1日にTモールグローバル(天猫国際)に出店し、中国向けの販売を開始されましたね。このタイミングで越境ECを開始した狙いや、現在の取り組みをお聞かせください。
岩本氏:越境ECを始めた理由は、日本は残念ながら少子化で、妊婦さんの数が減っているためです。現在の出生率は約1.3で、政府が掲げている中期目標ですら1.6ですから、今後、少子化が劇的に改善する可能性は低いでしょう。一方で中国の新生児の数は2015年時点で年間約1500万人います。日本の約15倍という非常に大きなマーケットが隣国にある以上、進出しないわけにはいかないですよね。現在は天猫国際やJD World Wide(京東全球購)、楽天グローバルマーケットなど5つのモールに出店しています。
小川:進出先として中国を選んだのはなぜでしょうか。市場調査などを行った結果ですか?
岩本氏:先ほど説明した通り人口動態が魅力的であることに加えて、中国はマタニティウェアの市場が確立されていないため、当社にチャンスがあると判断しました。当社は28年前、デザイン性を重視したマタニティウェアの「P・パンツ」を発売し、日本でマタニティウェアという新しい市場を創出しました。今度は中国でマタニティウェアの市場を創りたいと思っています。
小川:中国はマタニティウェアを着る文化がないからこそ、今がチャンスだと。
岩本氏:チャンスです。私は仕事の関係で約20年間、毎年中国を訪問しているのですが、近年は中国人のファッション感度が高まっていることを実感しています。おしゃれに気を使う人が増えてくれば、いずれマタニティウェアへのニーズも高まってくると予想しています。
2週間で150万回再生された中国人インフルエンサー動画
小川:越境ECの開始から約6ヶ月が経過しました。手応えや課題をどのように感じていらっしゃいますか。
岩本氏:Tモールグローバルに出店した直後から、すごい勢いで売り上げが伸びたため、やはり中国には大きな市場があると確信しました。月商は現在まで前月比2桁から3桁のプラス成長を続けています。 越境ECの課題として今感じているのは返品への対応です。モールの規約では、製品に問題がなければ返品は受け付けなくて良いとされています。しかし、一部の消費者は、自己都合で返品や返金を要求してくる現実もあり、その対応に苦慮しています。 その他の課題としては、当社に限ったことではありませんが、今年4月から中国当局が越境ECに新たな課税措置を導入したことや、為替が以前と比べて円高に振れたことへの対応ですね。
小川:中国でどのようなプロモーションを実施していますか?
岩本氏:例えば、中国で人気のSNS「微博(ウェイボー)」を使ったクチコミマーケティングや動画を使ったプロモーションを実施しました。広告も多少は実施しています。費用対効果が高かった施策は、御社にお手伝いいただいた、現地のインフルエンサーを起用した動画プロモーションです(※)。
(※編集部注:株式会社エンジェリーベは、アライドアーキテクツが提供している中国市場向け動画プロモーションサービス「WEIQ for Video」を利用し、中国のママユーザーに向けてマタニティウェア商品の特性や感想を伝える約5分間のプロモーション動画を制作した。「微博(ウェイボー)」で80万人以上のフォロワーを抱える人気ユーザー(インフルエンサー)のIGisele(愛吉賽兒)さんに動画制作に起用し、IGiseleさんのアカウントで動画を投稿したほか、他のインフルエンサー4人が「微博(ウェイボー)」上で投稿動画をシェアして拡散を図った)
IGisele(愛吉賽兒)さんが制作したエンジェリーベのプロモーション動画
小川:効果が高かったと評価していただけて光栄です。動画プロモーションの具体的な成果をお聞かせいただけますか。
岩本氏:動画を配信してから約2週間で閲覧者数が1, 000万に達し、再生回数は150万回を突破しました。「微博(ウェイボー)」の投稿から、Tモールグローバルに開設した公式ECサイトへの導線を貼った結果、投稿翌日の売り上げが通常の約2倍に増えました。
参考:エンジェリーベ天猫国際旗艦店
https://angeliebe.tmall.hk
小川:「WEIQ for Video」に取り組むことを決めたきっかけを教えてください。
岩本氏:さまざまなプロモーションの費用対効果を検討した結果、まずはインフルエンサーを活用したマーケティングで売り上げを伸ばすのが効果的だと判断しました。
小川:広告に投資するのではなく、まずはクチコミを活用して、じわじわと売り上げを伸ばすのが有効だと。
岩本氏:そこは大企業との違いですね。資本力がある大企業は広告宣伝費を大きく投下して売り上げを一気に伸ばせば良いと思いますが、当社は資金が限られますから、費用対効果が良いインフルエンサーマーケティングを優先しました。
小川:インフルエンサーを起用した動画を見て、どのようなご感想を持ちましたか。
岩本氏:なかなか良かったですよ。中国で人気の台湾人女性に当社のマタニティウェアを紹介してもらったのですが、彼女は実際に子育てを経験しているから、商品に対する感想にリアリティーがありました。また、クリエイティブも大事ですが、やはりインフルエンサーの影響力が重要だと感じましたね。
小川:インフルエンサーを活用した動画マーケティングの可能性を、どのように感じていますか。
岩本氏:当社の商品は静止画よりも動画の方が機能性が伝わりやすいため、相性が良かったのだと思います。動画マーケティングについては、タイミングを見て今後も実施したいと考えています。
考え方によっては越境ECのリスクは意外と小さい
小川:改めて中国市場の将来性についてのお考えを伺いたいのですが、例えば、中国は税制や政府の方針が頻繁に変わるリスクもあります。
岩本氏:いわゆるチャイナリスクですね。ただ、それはすべての企業が同じ条件ですから仕方がない。
小川:EC事業者の中には、中国展開を検討するものの、市場環境が日本とあまりに大きく違うために進出を躊躇するケースも多いようです。一方、御社は、市場の可能性の大きさに賭けたわけですね。
岩本氏:例えば製造業の企業が中国に進出し、現地に工場を建設するなら、大きなリスクが伴うと思います。一度進出すると撤退が難しいケースもありますから。しかし、越境ECならリスクは少ない。
小川:越境ECには、「配送」「決済」「言語」の3つの壁があると言われますが、苦労していることはありませんか?
岩本氏:現在は全く苦労を感じていません。なぜなら、かつては、越境ECを行うには、現地の配送会社や決済会社を自社で手配する必要があり、オペレーションが本当に大変でした。しかし、今は配送も決済も、モールのシステムの中で全て完結します。顧客対応は信頼できるパートナー企業に委託していますから、当社は、出品している商品を国内の倉庫に送ればいいだけです。大きな問題はないですよ。
小川:中国と日本の消費者は、どのような点で違いがあると感じていますか。
岩本氏:中国のお客様は、商品の品質を褒めてくださる方が多いです。着心地や縫製などがすごく良かったとレビューに書き込んでくれるんですよ。日本のお客様は、品質が良いのは当たり前だという認識があるためか、あまり褒めてくれません(苦笑)。中国の消費者は、日本メーカーの品質の良さを、しっかり評価してくださっていると感じています。
小川:最後に、中国事業の今後の戦略をお聞かせください。
岩本氏:当社の主力商品である「P・パンツ」を中国でもヒットさせたいです。28年前の日本には、マタニティウェアというカテゴリーはなく、当時の妊婦さんは、サイズの大きなジャージやトレーナーなどを着て、お腹を目立たないようにしていたそうです。そういう時代に、当社の創業者が「P・パンツ」を開発したら大ヒットしました。当時は妊婦さんが履けるおしゃれなジーンズはなかったため、注文を断らざるを得ないぐらい売れたそうです。中国でも同じように、マタニティウェアの文化を創出したいです。 私は商社出身ということもあり、常に海外の市場に目を向けてきました。前職を含めて1997年からファッションEC業界に携わっていたこともあり、実は以前から、エンジェリーベの社長として越境ECに取り組みたいという想いを持っていました。中国は難しい市場だと昔から言われますが、「虎穴に入らずんば虎児を得ず」という諺の通り、挑戦し続けて、市場を切り開きたいですね。
<プロフィール> 岩本 眞二 氏
株式会社エンジェリーベ 代表取締役社長
エンジェリーベ公式オンラインショップ http://www.angeliebe.co.jp/
インタビュアー:小川 裕子
アライドアーキテクツ株式会社 事業企画室 室長
記事構成・執筆:渡部 和章 ライトプロ株式会社
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